点心教室の理念

点心は究極の食文化

飲茶の解説

 飲茶とは20世紀初頭に香港で花開いた朝食文化です。お茶を飲みながら点心を食べるという生活様式を「飲茶」と云い、お茶の持つ薬効を活用するという医食同源の精神に添った、合理的で身体に優しい生活様式と考えられます。香港の活気に満ちた早朝の飲茶レストランは家族連れで溢れており、早くて安くて美味いという3条件を満たした飲茶とは、香港人に欠かすことのできない簡易食なのです。

 中國での食事とは昼食と晩飯を云い、間食は飲茶と午点(下点ともいわれる午後の点心で、3時のおやつの様なもの)と宵夜(夜食)がある。つまり中國人に於いては2度の食事と3度の間食という、体に過度な負荷を掛けず栄養の吸収効率が良いと考えられた食習慣がある。健康の維持は食の摂り方にあり、食の回数で摂る量と栄養バランスを調整し、陰陽五行に基く中医を考慮しながら長寿を目指すという、医食同源を実践しているのです。点心とは読んで字の如く少量(点)を身体(心)に取り込む個体の食品。そこには暴飲暴食を戒め、空腹に小量の個体食を摂るという意味と、栄養の偏りを避ける為に多種多様な点心を少数多種摂って欲しいとの願いが、点心には込められていると云われてます。更に点心は心を点(つ)けるという、相手を思い遣る心を指先に込めて包み上げる、繊細で身体に優しい食文化なのです。

点心マイスター協会の点心と使命

 生命の維持と健康の源である食との意味だけでなく、笑顔に満ちた幸せな毎日を送ってもらえるようにと心を込め、一つずつ手作りされた点心の提供も協会の目標なのですが、先ずは本物の点心とは如何なるものかを知ってもらい、広めていくことを目的に協会を設立したのです。 歩みは鈍いですが一番確実な手段は、直接教えることと考えた結果から点心教室を2005年に始めたのです。

 先ずは生産者が愛情を込め育んだ素材との出会いに感謝することから始まり、自然の穏やかな美味しさを壊すことなく活用する術と、餡と皮の製造技術を体得してもらい、心を込めて生み出す点心の全てを伝授する事が私の役目であり、目的でもあると認識しているのです。独自配合の粉と天然水で練った生地を、己で作った包丁で伸ばした皮に、同じ天然水で洗浄・下処理した蝦に、独自で作る自然の調味料を加え、数えきれない程に改良を重ね組み上げたレシピ通りに作った餡を、手延べの皮に置き、両手指を使った熟練の技で包み、最も体に優しい究極の加熱調理と、日本の竹細工職人に無理を云って依頼し作って戴いた繊細で優美な蒸籠で蒸し、その蓋を開けると、湯気に包まれる中から蝦のほのかな赤みが透けて見える蝦餃の姿は、食べるのもためらい見入ってしまう!煙る中からまるで赤子の柔肌のように弾む、半透明の繊細な皮に優しく包まれた、得も言われぬ餡とのバランス、蝦のプリっとした食感と穏やかな味覚は、自然は穏やかであり美味しいものは美しいとは、まさしく真実!

画像をご覧あれ、「私が何者であるかお示ししよう! (美味礼賛)

(2025年2月4日生徒の皮を25g借りて、蒸籠の大きさに合わせて包み。画像撮って後、生徒のガストに)

点心とは残酷なもので、見ただけで本物の点心師が造ったものか否か判ります!
点心は点心師の人間性や本性をそのまま表現するので、心の卑しさも隠せない。
食べてみるとより一層明確に判ってしまうのです。
論語の中に達人の定義が有りますが、その大前提として「質直にして義を好み」と述べられています。先ずは質素で正直な本性であり美しさを常に求めている生き様が源なのでしょう。

点心の解説

 中国語で点とは通常一点(イーテェン)として通常使われる言葉で「少し・少量」という意味ですが、別に点火・点灯・点滴等の動詞として使われます。少しと云う意味も含めながら、加える・点ける・垂らすという意味が有り、茶道に於ける茶会の点心も単に「空腹に少し加える」という意味とは別に、お茶の根底に流れる恕でおもてなすという心を込めるという精神文化であり、飲茶の点心であっても同じく思い遣る心を指先に込める故に、恕心が通い和むのですが、その神髄を教室で皆さんに伝えて頂きたいのに、点心の教室が金儲けの道具になり下がった教室も在るようなので、受講される方はくれぐれもご注意ください。
当協会の主旨に背き、需要が有り競争相手も少なく生徒も直ぐに集まると、格好の金儲けの道具にマイスター認定証をしてほしくないので、今後の教室開設希望者の受講受付の中止を決めたのです。 
点心を理解せずに表面だけ習って基礎もできていないのに、安易に認定書を発行した私の責任で、誠に申し訳ありませんでした。
まさか訳の分らないコースを勝手に決めて認定書を発行し、孫弟子の教室まで出現しているとの現状に歯止めもできず、私に出来るのは注意喚起しかありません。

物作りとは必ず原材料と道具そして技術を必要とします。それらには、全て科学的・物理的・論理的な基本的理論があります。スポーツでも同様、基本理論に基き反復して身に付けるのですが、基礎が間違っていると反復が足を引っ張り上達しません。基礎の理念から論理的に学んで欲しいのです。それがそのまま点心の仕上がりの美しさと味覚にも反映されるのです。
「美味しいものは美しい」とはそれを私は言っているのです。
自然を凝縮した点心は素朴であり麗しいのです。味は優しく後味は穏やか、余韻まで楽しめる究極の食文化と云える道理なのです。

協会運営と現状

35年程続けた点心工場の中で2005年10月から開設した日本で唯一の点心教室は(プレスリリースに記載されている)、工場は閉鎖して既に10年以上経過するも、その間飲茶点心の普及にだけは継続し続け今年は何と20年目、既に千人を優に超える受講者に飲茶点心を教え、日本国内だけでなく外国を含め現在では106人の点心マイスター認定者を送り出し、日本人点心師の手作り飲茶店舗及び点心教室の大半は点心マイスター協会のマイスター認定者、若しくは当会員。

 何故なら、私が香港飲茶点心師の長老の一人・呉 福榮氏の全面協力で、香港から点心師3名を招聘し、東京江東区に点心工場㈱香港厨師会を立ち上げた1988年には、点心教室など皆無、日本人点心師も不在。香港の点心師にとって技術流出は死活問題になるので、いまだに門外不出。香港の点心師はレシピを誰も持っていません。私が点心を始めて一番驚いたのはこの事実です。通常考えたらあり得ない事ですが、彼らは全て記憶していたのです。そこまでして情報流出を防いだから香港点心師の独壇場となったのです。その様な中で18年間掛けて、全て彼らの情報を少しずつ集めながらレシピを作り上げ、レシピ開発の能力も同時に身に付けて行ったのです。 
点心師として必要な技能は多岐にわたり、習得に時間と経験を要し、日本人の点心師は現在でも私以外存在しないと云えるのです。現在協会自体はマイスター協会規約に基き運営しています。
点心師として必要な技能は多岐にわたり、習得に時間と経験を要し、日本人の点心師は現在でも私以外存在しないと云えるのです。現在協会自体はマイスター協会規約に基き運営しています。

5年前急性大動脈解離入院後、2度の脳梗塞での入院後には裁判等の雑事に翻弄され、この合計5年間は本来の私の目指す点心の制作と教室は、ほぼ活動停止。

 この5年間は協会には目が届かず責任放棄状態にしてしまい、心苦しく申し訳なく思っています。この間会員皆様の提言や助言には耳を貸さず、ただ皆様の活動の妨げにならぬ様に控え、表立った協会に対する活動は不可能で同時に慎むようにしていましたこと、お詫びいたします。唯、休養と思案の良い時を与えられたと思っています。

 本来飽きっぽい私が、40年以上も飽くことなく追求し続けている点心とは、余りにも難しく満足できず納得いかない口惜しさが楽しいのでしょう。「年をとるとは、年と共に朋を失っていく事」と言われるのに、年と共に新たな朋との出会いが増える喜びも持てるからなのでしょう。来年には齢80になるという現在も、未だ到らぬままの技量に納得できず、口惜しくもあり亦新たな学びが悦ばしく、点心に魅入られたたまま。

 大病で合計4度の入退院を繰り返しその後は幸いにも後遺症はなく、3か月毎の低健診時も気になるような変化もなく、恙無く元気に過ごしております。
手指の利きが多少衰えゆくのは仕方無いことで、その代わり今迄の経験に基く智恵と技術が後押しし製造に支障は無く、穏やかで平安な毎日を送らせていただいています。食材の配合・新素材の出現・新たな調味料や道具・製造方法の考案など、私自身も日々進化を続けており、それを皆様に伝承し、目を輝かして学び習得する受講生との受生との時は楽しく、日々充実しているのです。

 技術を友とし誠実を旨として魂を磨く努力を怠らなければ、皆様に於いても飲茶点心の習得は、終生の伴侶と財産になるはずです。

日本の点心への変換

香港の生活様式である飲茶の習慣があるからこそ点心の需要と競争が有り、味の素グルタミンソーダがより安価で・美味しく・早くという飲茶点心のファストフード化に多大な貢献をし、点心文化が花開いたのです。1970年代には日本に上陸し第一次点心ブーム到来。その多種多様な点心の美味しさと体に優しいというコンセプトも共感を呼び、世界中に点心は広がって行き香港点心師は世界中に散っていったのです。

 生産者の立場からすると日本に朝食様式としての点心需要は無く、日本が求めているのは料理の一品としての点心。つまり根底から目的が違っており、料理(スローフード)でなければならないと、遅ればせながら30年も経た後に気づいた次第。そこから8年程は料理に変えていく作業に没頭し、レシピがあまりに頻繁に変更になるので受講生も戸惑った事と思われますが、日本人による日本人の為の点心に修正したのです。

 調理の基本となる水は点心に最適の自然な水に変更、化学調味料とかアミノ酸と表記される調味料は中止し、添加物は極力避け、咸点には砂糖の使用は控え、日本食の旨味をベースにし、素材の選定を厳格に、下処理に手間暇を掛け旨味引き出し、自然の持つ風味や食感を壊すことなく調理し、穏やかな美味しさを目指す。

全体のバランスに留意しながら過度に人工的で華美な形状や見た目にはせず、あくまでも素朴で自然な美しさを追求した点心を目指したのです。

 使用する調理器具は同様に一生使う事を前提に安全を最優先とし、材質を考慮し機能的で、修理修正可能な、長持ちのする物を基準として、不具合は自分で修理や改善し、自分の手に会った道具を作り使用する。
かれこれ40年以上の時と経験の集大成である当協会の点心を、後世に残したいとの思いで隠すことなく受講者に伝えていく為の点心教室なのです。

点心マイスター認定者の点心教室開設運営者に対する要望

マイスター認定者が開設している教室の前提は、趣味の方を対象にした教室です。
協会の主たる目的は規約に記している通り、正しい点心の理解と普及。

 一応規約に、最低限の常識的制約はあり、会員の皆様には規約遵守に同意して下さるとの署名を、申込書に頂戴はしています。

細かい縛りや規制は当初からせず、楽しく自主性と皆様個々人に対する信頼を礎として、自由に活動して戴いていましたが、私自身に残された時にも限りが有るので、そろそろ点心マイスター認定者であることを掲げる教室の指導者に対し、せめて「点心」の意味と根底を流れる精神ぐらいはご理解いただき、各教室の生徒には必ず伝えて欲しいと考えている次第です。

前述の通り、以前のレシピでは現在の点心と乖離があり、対象や製造の理念が異なることから、食材から加工手順や加工方法まで変わり、それらすべてには理由もあり教わる者にとっては貴重な情報です。残念なことに、レシピが進化している事すら知らない指導者も居る様です。レシピも進化し変更が無いとは私自身の怠慢で、マイスター協会など運営する価値も資格はなく、皆様に対しても失礼です。
進化したレシピに興味ぐらいは持って頂きたいものです。
レシピの裏に隠された美味しく麗しい点心作りの秘訣とは、常に相手を思い遣り心から持て成す気持ちを込めて、自分の感謝の表現をすることなのです。だからこそ究極の食文化と云えるのです。

余り要望を云っても会員を置き去りにした私の責任放棄の結果なので、多くを語る資格など無いのは承知していますが、唯、点心マイスター取得時に「当協会のマイスターとは、あくまでスタートラインに立ったとの証明である」と伝えていたことを再認識して、時間をみて復習に来られることも意義深いことだと思います。

 点心を製造する心構えの忠恕の精神に沿ったものです。失礼を承知の上で、敢えて確認の為に述べておきますが、忠恕とは儒教の神髄で「我欲せざるを人に為さず」という事。簡単に言えば人に迷惑を掛けない事です。
「過ちを改めざるを過ちといふ」と論語では云いますが、
一項目でも思い当たり、修正しようと思い立たれるのであれば、必ず受講者及び受講希望者には共感を呼び、点心マイスター認定者としての信頼性も増し、協会自体の信頼性や評価も必ず上がり、個々の皆様にも反映され私も誇りに思います。
断っておきますが、それは皆様自身の、会員各位の、協会のプラスになるのです。

生業とするのだから決してお金儲けがけ悪いと言っている訳ではありません。
カツガツと卑しくお金儲けを優先しないで、「清貧」を旨としてください。
点心マイスター認定者としての品位と恥じらいを保持してください!
何故「点心マイスター協会」との商標を取ったとかは、協会の品位と信頼性を守りながら活動される皆様の為であることをご理解ください。

以上、心からお願い致します。

以下参考まで、

点心師のプロを対象にした教室教とは

私はプロの点心師を目指す人しかお教えしません。趣味で習いたい方はマイスター認定者の開設する教室にいけばよいのです。
点心師を育てるとはどの様な意味なのか解説しておきます。
点心を作ることより教えることは数段上の能力と経験を必要としますが、これは冷静に考えれば誰しも理解できる道理です。教室運営者は参考になさって下さい。

― 点心を作る立場で必要とする知識と能力及び条件とは ―

点心師としての作業を大雑把に云うと、

1)食材の選定、食材入手先の確保、適正価格での購入と在庫の把握、必要な道具や器具の入手、包材他雑貨の手配在庫の把握、厨房環境の設定と資格保持及び保健所の許可取得(教室は不要)です。

2)皮や餡の仕込みや製造、販売に耐えうる点心の製造と十分な製造速度と仕上がりの美しさ、加熱調理と提供方法を熟知、後片付け、製品や仕込み材料の保管方法等を一人で全て出来ることが必要条件ですが、

 教えることは前述の条件以外に、
必要な知識:歴史・背景・語源・商品内容・原材料内容・等々、商品知識、個々の商品器具道具を選定した理由、レシピの解説と科学的・物理的根拠の理解。
技術指導:手を取って教える必要があり、腕や指の位置や角度、力の加え具合や抜き具合、その理由や理屈を教えなければならず、間違いを瞬時に判断・指摘し修正。最終指導:加熱調理時間と加熱方法、餡や点心の在庫方法とその工程と理由など・・・、上げていけば切りが無いので実地で理解してもらいますが、製造技術の伝授・これは趣味の教室では不可能です。何故なら目が届かず、教えられても生徒2名までが限度。
そして一番大切な成果とは、点心師を一生の仕事としてやりがいがあり・やりたい・やれると確信を持てるように導くことです。
以上が出来れば、プロを育てたと言えるのではないかと考えています。

大切な心構えは、プロを目指す人は儲けることは2の次3の次で、如何に相手を敬い、思い遣りをもって満足してもらう事を優先し、誠実に良い信頼関係を構築し、誤魔化しをしない事。朱子が五徳の信と「守を信なり」と云っていますが、言い得て妙で奥の深い解説です。点心は己の生きざまの表現ですので、「信念を貫き、信頼を礎にすれば必ず成功いたします。点心とは皆を和ませ幸せを届ける古の中国からの賜物です。」 
2025年に皆様に送る最後の提言です。