設立経緯/設立者紹介

小林耕二
点心マイスター協会会長 / 点心研究家


明治大学文学部史学地理学科東洋史昭和42年卒業後、株式会社コロネット商会勤務。
29歳貿易業に転身し、台湾羽田機械有限公司のスクーターVespa(Piaggio社)の部品開発を依頼され、同社クラッチを8年かけて開発。製造・輸出などの業務に従事した後モノつくりの感性を活かすべく、香港飲茶点心師としては長老の地位を築き上げていた 呉福榮 氏との出会いが契機となり、1988年東京都江東区に㈱香港厨師会を設立。彼の全面的協力と援助から本場香港の飲茶の点心師(料理人)を香港から3名招聘し飲茶点心の工場を発足。その後多くの香港点心師から直々にレシピや技術を15年かけて習得。後に「日本人による日本人の為の点心」の研究及び開発を開始、添加物のない時代の古き伝統的な点心レシピを基に、化学調味料ほか添加物を極力排除した「身体に優しい」本来の点心の製造販売を進め、2005年より本物の点心の理解と普及を図る目的で点心教室を開始。             2008年点心マイスター協会を設立、本格的に点心マイスター協会の運営を開始し現在に至る。

点心マイスター協会の「身体に優しい点心教室」主催にあたって

広東語の「ヤムチャ」という言葉が日本語として定着し、何ら抵抗なく使われるようになり既に40年以上経ていますが、日本では飲茶点心を本格的に教える料理学校や教室は見当たりません。
それどころか飲茶点心専門の日本人点心師が居る飲食店舗を、私の知る限りですが聞いたことはないのです。飲茶点心を自店舗で製造し提供できる高級飯店は、必ず厨房で香港の点心師が黙々と作っていますし、そうでない店舗の多くは既存の点心を仕入れて提供しているのが現実です。

※日本人飲茶点心師不在の原因

元来香港の点心師が日本人に伝授していれば日本に点心職人は育ち、飲茶がより一層浸透していたのかもしれません。しかし彼ら香港点心師は己の技術や知識を点心師同志では共有しますが、他に教えることはしません。外国人などとんでもない話で、隠すことに躍起となるのです。
彼らは世界中から好条件で招聘され高待遇を得ています。例えば招聘された国の人に教えれば、彼らは不要となり解雇され若しくは給料が下がる。故に異国の人には教えないし同じ香港の調理師であっても同様い教えず隠すのだと推察されます。

もうひとつの理由は、飲茶点心とは熟練の技術を必要とし製品の完成度が一目瞭然で、少し習った程度では全く通用しないし、多種多様の製品をそれも速く作る腕を必要とされる。原材料の判断から材料の仕入れ、粉から皮作り・具材の仕込みから具材の管理・整形加工・加熱調理・盛り付けと、全てを一人前にできるようになるまでには、いくら少なくとも15年以上の期間が必要だと云われます。ところが点心師の地位は中華の料理人4種類(鍋・板・前菜・点心)では一番低いと言われます。何故なら製品単価が安く、量を売らなければ稼ぎが少ないという事が起因していると考えられます。故に、彼らは香港で腕を上げ給与の高い外国へと出稼ぎに行くのでしょう。
それを維持するための予防策と考えれば、当然のことであり仕方ないことであると思います。

「身体に優しい点心」開発の経緯

1988年株式会社香港厨師会を設立し飲茶点心を製造販売し続けてきました。
設立時から香港の点心師を招聘し、彼らから香港飲茶の伝統的技術とノウハウを「盗むようにして」習得し、さらに「日本人が造る日本人のための点心」を提供すべきであるとの思いを深め、飲茶の根底に流れる「身体に優しい食文化」という理念を追及するに至りました。
それが化学調味料や保存料の無かった時代の点心の再現であり、自然な美味しさを引き出すために砂糖をも使用しない点心を、日本人スタッフのみで開発してきたのです。
その開発に香港点心師を活用しなかったのは、下記の理由からです。

◆化学調味料や砂糖を使わない点心を勝手に開発することは親方に対する裏切りであり、綿々と続く徒弟制度の否定に繋がります。その結果として、親方から良職の紹介等は受けられなくなる可能性を秘めているから彼等香港の点心師には基本的レシピを変更することは不可能。

◆衛生観念が日本人とは全く異なり、日本式に変えることは15年費やしても私には出来なかった。
日本人の「水」に対する認識は独特で、意識下には「神聖なものとして清めに通づる」というものがあります。しかし彼らにとっては水は汚いものなのです。故に、トイレに行ってもわざわざ汚い水で何故手を汚さなければならないのかと思っているのか、何度言っても手洗いの習慣は身に付かなかった。 食器の洗浄にしても彼らは全て貯め洗いで、流し洗いをしてると「ダメ!」と怒られる始末。流し洗いは日本人独特の洗浄方法であるとつくづく認識させられたものです。
彼らの殺菌は常に加熱殺菌で、日本独自の刺身文化等は通用しないのです。例えば点心製造中に、製品やヘラなどの道具類を下に落としても無頓着、まな板をその都度洗わなくても平気、手を厨房内でも洗わないので注意するとこちらは問題あるのに「大丈夫!問題ない!」との返事。
しかし考えてみれば彼らの衛生観念の方がより科学的であり、合理的であるとも言えるのです。
但し、食とは感性の問題もあるので受け入れられない私が居ただけで、最良の方法とは両者の衛生観念を取り入れることであり、それこそがより安全な衛生対策と認識し、加熱殺菌も今は併用しています。

◆余りにも給料ほか雇用条件が高条件すぎた為という、経営上の問題。
特に2番目の原因は色々と軋轢を生みましたし、慣習や認識の問題故に苦労しました。
しかしこれらの問題が安全な食に対する改善の契機となり、例えば点心製造に使用する豚脂は常に加熱して溶かしたものを使用するなどで応用できていますし、最終的に食す前に再加熱をする製品しか製造しないとの方針も、食の安全を考慮した上でのことなのです。また一部商品を除いて(小籠包に関しては生冷凍)製造した製品は一度芯まで加熱殺菌をして出荷するという方針も併用の結果なのです。

点心マイスター協会の設立

私が飲茶点心工場を開設して20年程継続し、その経験と知識や技術を伝え広めていくことこそ、歩は鈍いけれど確実に私が考える「本物の飲茶点心」の普及と浸透の近道であり販売にも繋がると気付き、それはまた中国食文化の理解に貢献するだけでなく、日本の食文化向上に於いても意義深い活動であると考えたのです。その様な想いで点心教室を2005年から週1回ペースで開始し、(株)香港厨師会の千石工場内で開催していました。その開催期間に培った経験とノウハウの蓄積と、受講者の皆様は実に楽しそうに学ばれる様子を見つめながら、それ以上に教える側の私も幸せを与えられながら受講者は何の宣伝などしないのに増え続け、受講者の皆様から意見や要望と意向を礎にし、飲茶点心の理念や技術を本格的に広めていく目的で「点心マイスター協会」を設立したのです。

点心マイスター協会の使命

私達は協会として、初心者の指導からスペシャリスト(点心マイスター)の養成、身体に優しい点心教室・飲茶店舗ほか飲食店事業立ち上げの協力まで、飲茶点心を正しく広めていくこと全てに関わっていく所存です。
飲茶点心の専門的知識や製造技術を持った日本人は稀有な存在です。あくまでもプライベートなスキルとしてご家庭で活用される方、それを教室で広めようとされる方、中華料理店・飲茶レストランに於ける雇用や事業として活用される方々と、身につけたスキルの使い方は様々です。
その広がりを楽しみに、私たちは支援と協力を惜しむことなく致すことこそ協会の使命と考えます。基本理念である「身体に優しい点心」を堅持し、安心して食べていただける飲茶点心の普及を担ってくださる方々の為の協会であろうと努める所存です。

何卒皆様方のご支援と応援とを賜りますよう、よろしくお願いいたします。
尚、ご意見やご助言などお気づきの点があればご遠慮なくメールにてお寄せください。